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男の嗜好品としてライターは、カメラと並んで最右翼にある。小さなパーツでつくられたメカニックな構造。掌にずっしりとくる重み。使い込むにつれ増す愛着感。いくつでも手元に置きたいコレクター性。その中でジッポ社のライターは、メカニックである以外、ほぼその条件を満たしているのではないか。蓋を開けたときのカチャリと鳴る金属音に、底面から注意深くオイルを綿に沁み込ませるときに味わう至福の時間が、男心をくすぐるのである。あれこれとライターをいじくるのは、煙草をより良く味わうための儀式のようなものである。もっとも現在は百円ライター全盛で、手間のかかるオイルライターは隅に追いやられつつあるが。
ジッポ社は1932年に設立され、強風下でも火の消えない丈夫なライターをという軍部からの依頼のもとに開発された。あの装飾性を一切廃した四角い顔は、機能性を念頭においた末の、のっ
ぺりした風貌なのである。そしてパーツも少ない。総数にして10点もないのではないか。
それだけに頑丈で故障に強い。ジッポ社が永久保証を謳っているのは、そのシンプルな構造によるところが大きいのだろう。その頑丈さゆえに軍の指定を受けて、ジッポ社は飛躍的に発展していく。両世界大戦があり、朝鮮戦争があり、ベトナム戦争があり、アメリカは休むことなく兵士を世界に送り出している時代だったから、ライターの需要も留まることが無かった。戦争は企業の理念とは関係なく、予想もつかぬところで利益をもたらす時がある。
そしてジッポのライターには、もうひとつの顔がある。あの四角い顔を利用して、企業のPRや広告、
イベントの記念品や限定モデルとして使われたことである。あの大きくて平面な顔を看板やキャンバスに見立てれば、いかようにも文字やロゴ、絵や図案を描くことができる。現在はその豊富な絵柄を求め、使うことよりコレクションとしての色合いが濃くなっており、世界中にジッポマニアが存在している。マニアための情報交換の雑誌まで発行されている熱気なのだ。これも企業がまったく意図としなかった需要であろう。
ジッポは創業以来の販売台数が、1億個を超えたそうである。あなたの机の中に眠っているジッポは、1億のなかの1個というわけである。久しぶりにオイルを注いで、このロングセラーライターの、開発当時の試行錯誤をぼんやりと思い浮べながら、煙草を吸ってはどうだろう。
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